若宮斎場に70歳くらいの、見た目から仲のよさそうな ご夫婦がいらっしゃいました。 しかしお二人からは不安な様子が、その表情から痛いほど伝わって来ました。 そのご夫婦は彩苑に来館するのは2度目でした。 1度目は数日前に事前相談で来館し、互助会の説明を受け、 その日入会申込書を持って来ていただいていました。 実はそのご夫婦は葬儀社を訪問するのは、彩苑で5社目。 どこも真摯に対応してもらえず、 葬儀社を決めることだけでも大変苦労したとのことでした。 葬儀はなるべく質素に、かつ金額も可能な限り取り押さえたいとのこと。 私は、金銭的な不安であれば、仮見積りを行うことで解消されるだろうと思い、 必要最小限度で見積もりをしました。 そのご夫婦は金額には納得され少し安堵されたようでした。 しかし、まだ不安な様子は消えません。 仮見積りが終わると話はお寺の件に移りました。 よくよく話を聞くと、ご夫婦の抱えている不安の根源は お寺の件であることが分かりました。 1度目の事前相談の時にも同様の相談をしたようです。 その内容は、先祖のお墓がある寺への納骨は本家から承諾を得たものの、 十分にお布施も支払えないのに、そのお寺に通夜葬儀のお勤めから戒名まで お願いしていいものか、ということでした。 1度目の事前相談では、そのお寺にお願いが出来ないのであれば、 通夜葬儀だけは別のお寺を紹介するとお答えしていたようでした。 そのご夫婦は1度目の相談の際には、そんなものかと思い一度は納得したものの、 やはり不安が解消されないまま2度目の来館をされていました。 そこで、私は本家から納骨を許可されたお寺の話を詳しく聞いてみました。 すると、ご夫婦は納骨をするにあたり、一度そのお寺を訪ねて、 納骨だけお願いだけしたのだとおっしゃいます。 私はその話を聞いて、単純にご夫婦が、十分なお礼もできないのに 通夜葬儀のお勤めから戒名、納骨までお願いはできないと 思ったのだと分かりました。 そこで、納骨をお願いしたお寺にもう一度通夜葬儀のお勤めから、 戒名、納骨までお願いしたらどうでしょうか。と提案しました。 案の定ご夫婦は、そんなお願いは出来ないと答え少し不満そうな表情をされました。 しかし私は、もう一度そのお寺にお願いをしてみるように再度提案しました。 それは、お寺に十分なお礼が出来ないと言いながらも、 やはりきちんとお経をあげてもらいたいという希望をお持ちだったからです。 私は、すぐに納骨の件で相談をしているのであれば、 そのお寺もご夫婦が依頼すれば、 必ず通夜葬儀のお勤めもして下さるのではないでしょうか。と話しました。 少し不満そうな感じではあるものの、私が引かなかったため、 一度お寺に相談してみると言いその日は帰られました。 あくる日、ご夫婦が若宮斎場にいらっしゃいました。その表情はにこやかでした。 そのご夫婦はお寺に相談に行き、通夜葬儀のお勤めから戒名、 納骨までお願いして了承を頂いたとのことでした。 お寺のご住職もご夫婦が納骨の件で訪れたときからそのつもりでいましたが、 既に他のお寺でお経をもらう事が決まっているのかと思い、 納骨の件だけ受けたとのことでした。 そのご夫婦はわざわざその報告をしに来館され、 葬儀に関する不安が一気になくなりましたと 満足気に話をされ、穏やかな表情で斎場を後にされました。