お通夜の打ち合わせの時のこと。
亡くなったお母様の思い出話を、ご家族の方に伺っていました。

特にこれといった、趣味もなく、特別に好きな食べ物飲み物もなかったと、
少し寂しげにお話されていました。
ただ、亡くなる前に飲み食いが出来なくなってしまったけれど、
細かく砕いた氷をあげると、それは召しあがっていたそうです。

「私が、氷を口元に持っていってあげたのよ。」
と、ご長女が優しい表情で言われていました。
「そうそう、喜んでいたっけなあ…」と、ご次男。
「俺があげたときは、すごく恥ずかしがっていたよ」
と、ご長男が少し照れくさそうに言いました。
私が、「それは、お母様は本当に嬉しかったでしょうね」と申し上げると、
皆様は少しだけ涙ぐみながらもしっかりとうなずいていらっしゃいました。

翌日、お別れ式のときに、直前に細かく砕いた氷を、ご家族の前に差し出すと、
「お母さん、氷が来たよ。良かったね。うれしいね。」
と、大変嬉しそうに手に取られ、
「いつも、こうして食べてたね」
「もう、こうしてあげることもできないね」
「ほら、お兄ちゃんからだよ。嬉しいねぇ」
と、ご家族の皆様は、涙を流しながらも、
優しい手つきで何度もお声をかけながら、お母様に氷を差し上げていました。

優しいご家族に見守られながら、お母様は旅立っていかれました。